present for you だから、お子ちゃまは嫌いなんだ。 「早く決めちゃいなって」 「う…ん」 「お前さぁ、何時間ここで粘る気だよ。」 呆れたようにアルノーが言う。 「う〜ん。もうちょっと…。あ、そうだアルノーが先に帰っててもいいよ。」 ジュードは振り返ってそう言うと、また品物を物色しはじめた。 アルノーは、両手に抱えた食料品を見ながら溜息を付いた。 「んなこと出来るかよ。お前一人を置いて帰ったら、ラクウェルに子守も満足に来ないのかなんて文句言われちまうよ。」 「ラクウェルはそんな事言わないよ。」 再度振り返ったジュードは、頬を膨らませていた。 「アルノーが一人で帰れないんじゃないの?」 「全く言ってくれるぜ。」 アルノーは諦めたように、ジュードが見ている品々に視線を変える。そこには綺麗な貝殻のネックレスが所狭しと並んでいた。 ジュードと愉快な仲間達は、大きな街と街の間にあった小さな村に逗留していた。対立するブリューナクの追撃も珍しくなく、久方ぶりに訪れた平和な時間を満喫していた。 ただ、この頃ユウリィが元気のない様子を見せていたことが、ジュードにとって唯一で最大の気がかりだった しかい、お使いをいいつかり買い出しに出た街の露店で綺麗な貝殻のネックレスが彼の目を惹いた。 何と言うものかは知らないが、桜色の貝殻はユウリィによく似合いそうで、ひょっとしたら彼女の心を弾ませてくれるのかもしれない…ジュードはそう思ったのだ。 でも、ユウリィが初めて見た女の子であるジュードは、勿論女の子へのプレゼントなど買ったこともない。どの商品を選んで、何と言って渡したらいいかがさっぱりわからないでいた。 アルノー聞いてみればいいかもしれないが、それもなんとなく嫌でただいたずらに時間が過ぎていく結果になっている。 「いい加減にしとかないと、ユウリィもラクウェルも心配するぜ?。」 「…。」 今度は真面目にそう言ったアルノーにそれもそうだ…とジュードも思った。 両手をポケットにつっこんで暫くは、尚思案顔をしていたが、ジュードはくるりと アルノーの方を向いた。 「どれがいいと思う?」 いきなり振られて、アルノーはぎょっとした表情でジュードを見た。チキンヘッドの通り名は伊達では無い。 「相談に乗ってくれるんでしょう?」 「あ、ああ?」 生返事を返すと、アルノーは今度は真剣に露天にならぶ品々を観察し出した。そうやって見ているアルノーの横顔を、ジュードはジッと眺めている。 「…おい、そんなに睨まれてると気が散るんだが?」 眉を思い切り歪めて少年の顔を見ると、彼も思いきり眉を歪めて言い返す。 「ほら、アルノーだって急になんて決められないじゃないか!」 いや、そういう問題じゃないだろうと口を開き掛けたアルノーは、商品の一つに目を止めた。 それのペンダントヘッドは濃い紅色。形は幸運を与えると言われている四つ葉のクローバーに似ている。 (可愛げがなくてすまないな。) ふいに、そう口にする同行者の顔が思い浮かんだ。 剣の腕と言い草を目の当たりにすると、確かに可愛げとは掛け離れてはいるものの、見られない顔をしているわけではなく。 よく似合いそうだ。 などと不覚にも思う。絵心などない自分の見立てなのだから、彼女から見れば陳腐な代物かもしれないが。 「これなんか、いいんじゃないか?」 アルノーの言葉に、しかめっ面を止めたジュードはその指さす方向を眺めて、再度顔をしかめた。 「これ、ユウリィには似合わないと思う。アルノー趣味悪い。」 「お前ねぇ〜。」 人に聞いといて何だよと、アルノーが抗議の声を出すよりも早く、ジュードはその横にあった、桜色の花びらを模したペンダントを指さした。 「これ、頂戴!」 「あいよ。」愛想良く露天商のおっさんはそれを包み出す。 「兄ちゃん、プレゼントだろう?ちょいとサービスしといてやるよ。」 「へへ。わかる?」 (わかるも何も、お前が付けると誰が思う!?) そうツッコミたいところだが、折角決まったものに横やりを入れる気はアルノーにはサラサラなかった。 とりあえず、これで帰れるとアルノーは安堵の溜息をついた。お子ちゃまは、隣で頭を掻きながら、おっちゃんの手とはおもえないほど綺麗にラッピングされていくものを見ている。 それが終わり、さあ帰路へと思ったアルノーに思いもかけない言葉が掛けられた。 「で、もう一人の兄ちゃんはこれだね。」 「え!?」 狼狽えるアルノーに構わず、おっちゃんはジュードの時と同じように包み始める。ふ〜んと呟いてジュードが言う。 「何だ、アルノーも欲しかったんだ?」 「違っ…。」 今までの経緯でお前は何を見ていたんだ!?と横を向いたアルノーの前にラッピングを終えた品物が突きつけられた。 「あんたら、連れなんだろ。二つ買ってきれたから若干安くしてやるよ。」 満面の笑顔の露天商のおっさん。 もう有無はない。 アルノーは渋々サイフの中からお金を取り出した。 「随分遅かったな。」 訝しい顔で自分を見たラクウェルに、愛想笑いを返しながらアルノーは買い物袋を手渡した。 「色々ありましてね。」 「ねぇねぇユウリィは!?」 パタパタと走ってきたジュードは、見張りをしていたラクウェルにそう尋ねる。 「あ、ああ。向こうで食事の用意をしてくれているはずなんだが。」 「わかった。ありがとう、ラクウェル!」 返事こそは残してはいるが、実際のところ、彼女の言葉を聞いてなどいなかった。 ジュードは一目散にユウリィのいる場所に向かっている。 「やれやれ。」 呆れた顔でそれを見ていたラクウェルが、自分の横で立ち尽くすアルノーに問い掛ける。 「いつにも増して元気だな。」 「お子ちゃまは新しいおもちゃを見つけたからな。」 溜息まじりでそう答えたアルノーにラクウェルはクスリと笑う。 「連れが元気が良いのは悪い事ではなかろう?」 「元気すぎるのは問題だ。」 そして、たわいない会話を交わしながら、アルノーも別の事を考えていた。それは、ポケットの中にある贈り物。 自分でつけるつもりなど全く無い。 出来ることなら、彼女に渡したい。 似合うと思ったのは、目の前の彼女になのだから。 「どうした?」 不思議そうな顔でラクウェルが自分を見る。 ああ、チキンハートを実感する瞬間。 彼女が思っているよりも、(おそらくは)遙かに可愛いと感じる顔が、真っ直ぐに自分を見つめる。 『ああ。』 とアルノーは思う。 ジュードの事を笑えないではないか。自慢の首から上も全く役に立たない。気の効いた台詞の一つも出てこない。 フッと息を吐いた。 「なんでもないよ。」 笑顔を作る。 そうさ、ポケットの中のものは、無かった事にしてしまえばいい。最初から買おうと思っていたわけじゃないんだから、黙っていればいいだけだ。 パタパタと小走りな子供の足音。 ジュードに手を引かれたユウリィが頬を染めて二人の前に姿を見せる。 彼女の胸元に可愛いペンダントが揺れていた。 「ほら!見てよやっぱりよく似合う!」 得意そうなジュードの表情に、アルノーの笑みをこらえる為に口元を抑える。 「もう、ジュード。」 恥ずかしそうに俯き加減で、しかし少年のくれたプレゼントに少女は嬉しそうに笑う。 まるで、絵に描いたようなほのぼのカップルではないか。 隣で見ていたラクウェルが微笑んだ。 「良く似合うではないか。ジュードもやるな。」 「えへへ!」 今度こそ本当に得意そうにVサインをしてみせたジュードに、ラクウェルの笑顔が増す。 大きな瞳を少しだけ細めて、長い睫が少しだけ下を向く。 ふわりと浮いた髪が揺れて。 淡い…きっと何もつけてはいないのだろうけれど、紅色の唇に笑みを浮かべる。 思わず見惚れて、アルノーは慌てて視線を反らした。 「新しいおもちゃとはあれのことか?」 笑顔はそのままにラクウェルがアルノーを見る。あーっとジュードが声を上げる。 「そんな事言ったんだアルノーってば!!」 ジュードは頬をぷうっと膨らませる。今度は悪戯な笑顔になったラクウェルに苦笑いを浮かべて、アルノーは悪かったよ。と口にする。 「ユウリィに似合ってるよ。最初からお前が選べば問題なかったじゃないか。」 その言葉にジュードはあれと首を傾げる。 「アルノーはまだ、ラクウェルに渡してないの?」 ぎょっと目をむいたアルノーにラクウェルの視線が向く。 「渡す?私に?」 チキンハートを再び鷲?みにされてアルノーは固まった。背中を変な汗が流れているのがわかる。笑顔もぎこちなさ満開だ。 「だめですよ、ジュード。」 雰囲気を察したユウリィは、両手でジュードのジャケットを掴むと首を横に振る。 「え?でも、アルノーが…。」 「こういう事は、えっと段階があるっていうか…あ、食事の用意が途中です。」 慌てたように、ユウリィがジュードを引っ張って行く。 「手伝ってくださいね。」 「う、うん?」 …だから、お子ちゃまは嫌いなんだ。 遠慮無しに、人様の痛い所を直接突いてくる。 「気にするな。」 クスリと笑ってラクウェルが言う。 「気になるよ。」 とアルノー。 顔はそっぽ。無言でジャケットの中の包みを取り出した。 「あそこまで言われて、しらを切りと押せるほど根性は座ってないんだよ。俺は。」 降参 アルノーの顔にはそう書いてあった。ラクウェルは、受け取ると丁寧に包み開けてなかのペンダントを手の上に置く。 「たいしたもんじゃないから、いらないのならそう言ってくれ。」 「いいや。」 照れ半分で、顔を逸らしたまま言ったアルノーの言葉にラクウェルはふるっと首を横に振った。 「とても、綺麗だな。」そう言って目を細める。 「ファルガイアの美しいものを見ていたくて旅をしてきたが、こういう美しさもあるのだな。」 アルノーの目にラクウェルの手の中のそれはより一層綺麗に輝いて見えた。アルノーは、彼女にわからないように深呼吸をすると、彼女の手の中のそれを持ち上げ、ほっそりとした首に巻いてやる。 「こういうのは、飾られてなお美しくみえるもんだ。」 『首から上をフルスロットルで、この程度か俺』…と心のなかでは苦笑いを浮かべながらラクウェルを見ると彼女は真っ赤になっていた。 「え…?」 「わ、私はこういうのに慣れないんだ。似合わないのではないか?あ、あの外そう…。」 「ちょっとまった。」 ぎこちなく首の後ろに回そうとした彼女の手をアルノーが止める。「俺も、慣れてないから、ゆっくり言うよ。」 「ラクウェルに良く似合ってる。」 夕食時に、ラクウェルの首にも下がっているペンダントにユウリィは微笑んだ。 「とっても良く似合ってますね。」 そうジュードに話かけたユウリィに、ジュードはマジマジとそれを見つめてこう呟く。 「…最初からラクウェルにあげるつもりで選んでたんだ。」 ふうんという感嘆と供に発せられたジュードの言葉は、再びアルノーを赤面させるのに充分なものだった。ラクウェルがまたクスリと笑う。 やっぱり、お子ちゃまは嫌いだ。 〜fin
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